田んぼの風景(2)  《佐賀平野 季節のプロムナード》    ― 麦秋 ― 

二毛作地帯である佐賀平野では、稲の裏作として麦を作る。
冬の始まりの頃に蒔かれた麦の種子は、冬の厳しさに耐えながら、
春への思いを秘めて黒い土の上に僅かずつ緑の面積を増やして行く。
冬から春にかけての植物の成長が遅い麦畑の風景は、変化に乏しく彩りも少ない。
そして、春
暖かい陽射しの中で麦はどんどん伸びて行き、
山裾がやわらかい萌芽と山桜の薄霞みで覆われる頃、
気が付くと青い麦の穂が、まだ冷たい朝の空気の中で、東の空を染める朝日に輝いている。
青い麦の穂が、イエローブラウンの麦秋に変わるまでの佐賀平野の風景。
それは、光り溢れる穀倉地のもう一つの顔でもある。

田んぼの春は
     川縁の土手や田の畔の端を
               黄色で彩る菜の花から始まる

畦道や道路の脇に土筆が顔を出す頃
                                 レンゲの花が 田んぼの主役となる


子供の頃
一面に茂ったレンゲの花の上で
ランドセルを投げ捨て
着ている服が草色に染まるまで 転げまわって遊んだ田んぼ

白花のレンゲを見つけると
何か とってもいい事があるような気がした



化学肥料が安価に入るようになって
レンゲを稲の裏作として作る農家はめっきり少なくなった




佐賀平野の裏作の主流は 麦である

真新しいランドセルを背負った一年生が
通学路の道端で 道草をし始める頃

麦の苗は 急速に伸びて
青い穂をつける

麦畑の一番美しい季節である

















朝一番の陽の光を浴びた
青い麦の穂は
まだ冷たい朝の空気の中で

黄金色に輝く



山歩きの為に早起きした私への
麦畑からの贈り物





サクラの花に代わり
カイドウの花が我家の庭を彩リ

ブルーベリーが可愛らしい花を
葉陰に揺らす頃



田んぼの中にある 小さな神社は

麦の穂の緑と
木々の緑で
すっかり装いを新たにする

雨の日のここの風景は
遠景がぼやけ
目障りな物が少なく 心が和む

田んぼの緑と 鎮守の森












子供の頃
何処にも在ったこんな風景が

今では
懐かしい風景となりつつある



通勤の途中垣間見る 田んぼの中の 小さな神社の風景







サクランボの実が

緑の葉陰で

小さな太陽のように

真っ赤に色付く頃








   田んぼの 散歩道では

            野鳥の囀りと 色とりどりの草花が


田んぼの訪問者を

        迎えてくれる



麦の穂に重みが増し 僅かな風で 麦畑が大きく揺らぐ季節

嵐の夜が過ぎ
僅かに雨が残っている朝の麦畑は

昨夜の暴風雨の様子を
そのまま
田んぼのキャンバスに留めている





麦の穂は 微かに色付き始め 収穫の日に備え始める



これから 田んぼは麦秋の季節に向かう

神社を囲む木々の色も
背景のも山々の色も
緑を一層濃くして
春は初夏へとバトンを渡す


田んぼの中の一角のナンキンハゼの森は
サギ達の楽園
子育てのこの時期 森の中に足を踏み入れても
サギ達が飛び去る事は無い


五月晴れ



青い空の下

涼風に 充実した麦の穂が揺らぎ

心地よい薫る風に 心がはずむ


山や野 海の それぞれの薫る風が
私の中の少年の五感に語りかけてくる

『おいでよ・・・ おいでよ・・・』











6月

花壇にムラサキツユクサの花が咲き出す頃

    庭や小さな畑のあちこちに
            ムラサキの野草が咲き出す



      ムラサキカタバミ             ニワゼキショウ             キキョウソウ



     麦の穂は乾いた秋の色となり

                       鎮守の森や背後の山の緑とのアンバランスの中で


麦畑は収穫の季節を迎える












子供の頃

麦刈りの休憩のおやつには

決まって枇杷の実が出てきた


十数年前に植えた種子が

ここ数年

なんとか家族の口に入るぐらいの

実りをもたらしてくれるようになった








近くの山辺の散策で ハルジオンの群落に出会う頃



     ハルジオン               ヨウシュヤマゴボウ              ウツボグサ




麦刈りを終えた麦畑は

その場を水田として使う稲に譲る為

麦藁を燃やす

秋の夕暮れにも似た

麦秋の終り















麦畑をを焼く煙りが

道路にたなびいてくる夕暮れは

早めに食事を済まして

蛍を見に行く

ここ数年続いている我家の慣習である














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