櫨の里山


  三月最初の日曜日

  『アマナが咲いている』の知らせに 妻と末娘と三人で『櫨の里山』を訪れた

             昨夜 我家の庭に降り積もった今年最後の雪は

                              時折 里山にも舞い降り
                                       視界に春と冬を交差させる


登山口にあたる『櫨の里山』から
少しばかり歩を勧めると

使い古した農機具や
古道具の類と共に
八重葎が茂る朽ちかけた作業小屋

そして 櫨の老木の下に
トタン拭きの屋根だけが残った
廃屋がある


           







乾燥した
茅の中の廃屋の風景は
何処か昔の匂いがする

懐かしみのある 暖かい風景


何故か 心の奥を微かに震わす


廃屋

段々畑

山の木々

茅・・・そう 茅(チガヤ)

田んぼの畔でも 畑の畔でも

至る所で見かける 茅

あまりにも ありふれて 何処にでもある 茅

子供の頃から 何処にでも有った・・・

茅は 私にとって 原風景の素材の一つなのかも知れない

人が自然の大地を耕して作る 田んぼや畑
茅は田んぼや畑の縁に生え
茅が繁茂する事で縁はしっかりとした畔になる


人が農耕を放棄した田畑は
笹などの背の高い植物が生えてきて
荒れてくる

そして 畔では 茅が姿を消し
やがて畔は 崩壊する

そんな所では
笹よりも背の高い樹木だけが
かつてそこで
人が生活を営んでいた名残を
わずかに偲ばせている


  自然の遷移は
やがて そこを極相の森へと
長い年月をかけて変化させる




茅は 里の農耕の証であり
                        里人の生活の証である


そして 茅は 人と自然の協調の証



時折雪が舞う

棚田の畔に

春を告げる花が咲く

















   アマナは 畔の茅の中で

            春の陽射しと 名残雪に

                         開花を戸惑う

人気のない 山里の

春の始まり




田に

畔に

里山に

春が 季節を彩る時がやって来た










町の桜が 満開を過ぎて 淡い花びらが風に舞い上がる頃

娘と二人で 櫨の里山を訪ねた

    




櫨の里山への道すがら

今では なかなか お目にかかれない
一面の蓮華畑に出合う

畔のアマナは 花を種に変え
主役の座を

田んぼ一面の 蓮華に譲っている




ホオジロやヤマガラの囀りを聞きながら

蓮華畑に入りこみ

子供の頃の風景を再現させる







     登山道を進むと櫨山の壁面に

   白い小さな花
     バイカイカリソウが風に揺らいぎ

   櫨の里山は
     沢山の春の息吹で溢れている



風に揺らぐ白い花は なんとも 優しく可憐な姿である

それが あちこちで
小さくお辞儀をしながら ささやき合っている


     瑞々しい若葉の陰の小さな花 二輪

  どんな相談をしているのか
     左右に小さく揺れている





山頂や茅の小道のあちこちに

上品な 上品な
ヒトリシズカの お目覚め

一人っきりで









そして何人かかたまって

春の陽射しを 満喫している

                 


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