蛤水道源流  
佐賀県と福岡県の間に東西に延びる背振山系の山々は、その多くが山頂を両県の県境に置いている。
そんな中で蛤岳は主峰背振山のほぼ真南に位置し、完全に佐賀県にのみ属する。
蛤岳の名前は、山頂にある大きな蛤岩に由来している。
蛤水道は、本来蛤岳から福岡県の那珂川へ繋がる大野川へ潅ぐ水を、佐賀県側に流れる田手川に導いた水道で、 佐賀の治水の神様のように言われる成富兵庫茂安によって江戸時代初期に作られたものである。
現在、水道はコンクリートのU字溝で作りなおされており、当時の面影は偲ぶべくもないが、 蛤水道の源流とも言える水道への取水口付近は、普段訪れる人も少なく、色んな意味で興味深い 私のすきな場所の一つである。



五月も半ばを過ぎた日曜日
吉野ヶ里を流れる田手川を遡り
東背振村より永山林道に向かう
営林署が管理する永山林道は鉄柵に鍵が懸けられ
車の侵入を許さない

車を鉄柵の前に止め
林道を歩いて蛤岳に向かう

車も人通りもない林道は
白い花の花盛り




林道の木陰に 白く輝く

コガクウツギ



谷川や 山道の傍らを飾るノバラ


街角や公園で見る薔薇の花と違って
白と黄色のみの彩りは
清楚で 優しく 懐かしい







春風に揺らぐ 水辺のエゴの花



谷川のせせらぎと
エゴの花の揺れる姿は
疲れた心にも春風を送ってくれる

緑の葉陰には 安らぎの空間がある





永山林道と九州自然歩道が交わると
蛤岳への登山口付近で蛤水道と出会う
登山道となっている九州自然歩道を選ばず
蛤水道沿いを更に歩く


水道の全てがU字溝で作りかえられて
石詰みの往時の姿は偲ぶべくもない

早い時期にU字溝に改修された所は
「人工」が時間と共に少しづつ「自然」に馴染んできている

自然にとっては時間は重要な要素なのである
人間が 自然を変える時間と
自然が 自然に戻す時間
人間はそのバランスを崩す事によって
なにを得 なにを失って来たんだろうか・・・



蛤水道の取水口は
本来は池となっていたと言う
山からの清水と上流からの谷川の水を
広い池に導き そこから水道を引いていたらしい

今は ブッシュ化した草木の茂る(元池だった)半湿原の中を
これ又 U字溝が直線で走って豊な水を導いている

この半湿原も「人工」が時間の中で「自然」に帰りつつある
興味ある場所である

半湿原のU字溝が行きつく所が
私の好きな場所

『蛤水道源流』と私が呼ぶ所


木洩れ日の下の清瀬

素足に 少年の日の感触が甦る






緑の木陰の中は
湿った土が緑の絨毯で覆われている

ウグイスやシジュウカラの囀りを聞きながら
ここまで来てやっと
少年の日に見た風景に会えたと実感する



木洩れ日の中で見つけたもの




ナルコユリとカンアオイ 

そして
ま新しい一つの沓跡・・・

蛤水道源流を

私の外にも
愛しく思っている人がいる・・・




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